ふらんす亭創業秘話【ふらんす亭ものがたり第1回】
2012年09月25日年の瀬の開店記念日
ふらんす亭のロゴマークに「since1979」と表示されているものが ありますが、これはふらんす亭が下北沢に1979年の12月29日に 開店た事から書かれています。 そうです。ふらんす亭の開店記念日は年の瀬も詰まった12月の29日なのです。 当時はまだデパートや商店はもちろんファにリーレストランですら 年末年始はどこも休業していた時代です。 したがって、12月29日に新しいレストランを開店させるのはかなり珍しいというか、 「変なお店」と思われてしまいました。
これにはちょっとした裏事情があるのです。 実は元々の開店予定日は12月24日クリスマスイブの予定だったんです。 開店記念日がクリスマスイブだと毎年忘れることはないし。 お客様と一緒にお祝いできそうと考えていたからです・・・
1979年12月23日 下北沢南口の小さな小さなカレーとグラタンの店 「ふらんす亭」は26歳の経営者を含め平均年齢22歳という若いスタッフ達と、 仲間の応援部隊が開店を翌日に控え、朝から準備を急いでいました。 ビンに詰まったたくさんのハーブやドライフラワーをディスプレイし、経費節約のために 自分達で手縫いしたテーブルクロスやランチョンマット それにホール用のユニホームの確認をすませ、 有線放送から音楽が流れ始め、あらゆる準備をクリアーしていきました。 夜は開店の前夜祭とクリスマスパーティーを兼ね、 手伝ってくれた仲間達と大騒ぎ 皆大いに盛り上がっていました。
しかし一人だけ盛り上がるどころか、どんどん落ち込んでいく人物がいました。 「カレーだけは任せとけ」と強気の発言を繰り返しながら、 他の準備は殆ど手を出さずカレーの仕込みに全精力を注いできたオーナーです。 昨夜から徹夜でキッチンに入り込み、黙々とカレーの仕上げ作業を続け、 前夜祭でホールが盛り上がっているときも、200人分のカレーを前に 険しい顔で取り組んでいました。
そして翌日 12月24日午前10時 記念すべき開店の瞬間の2時間前 お店にはお祝いの花が次々に届き、近所の方たちに挨拶を済ませ、 前夜祭で祝ってくれた仲間達が再び集まり始めたときでした。 この一週間徹夜で殆どキッチンに入りっぱなしだったオーナーが、 顔面蒼白状態でホールに出てきました。そしてこう言い出したのです。
「カレーの出来に納得がいかない。 昨夜から何とか手直ししようと ぎりぎりまで頑張ったけど納得のいくカレーに仕上げることが出来なかった。 初日早々納得のいかないカレーでお客様をお迎えすることは絶対出来ない。 だから皆には本当に申し訳ないけど開店を延期しようと思う。」
一瞬お店の中がシーンとなりました。 そして・・・
「えっ」 「開店延期 これ全部を?」 「お客様になんて説明するの」 「カレーだけは任せとけじゃなかったの」
仲間達から沈みきった声で質問が飛び出します。
「本当にごめん、どんなに攻められても、あきれられても仕方がない。 でもどうしても自分が納得のいかないカレーをお客様に出す訳には行かないんだ。」
オーナーは、万感の思いを込めた声を絞り出していました。 一瞬の間があった後 皆の顔がパッと明るさを取り戻しました。納得してくれたのです。
そうと決まってからは素早いリカバリーでした。 入り口に並んでいたお花を撤収し ドアーには「工事の都合により開店を5日間延期し 12月29日とさせて頂きます。」と張り紙を出しました。 そして仕込んだカレーは、泣く泣く全て廃棄し、 延べで5日かかるカレーの仕込みを最初からやりなおしたのです。
そして1979年12月29日ふらんす亭は後に 「伝説のカレー」と賞される事になるカレーをたっぷり準備し開店しました。 失敗の原因は、芳ばしさ欲張りすぎて、小麦粉の焙煎を僅かにやりすぎたことでした。
「これからクリスマスの度に思い出すんだろうね。」 「いつかきっと、なぜふらんす亭の開店記念日が12月29日なのか、 笑ってお客様に話せるようになるよ」 1979年の大晦日営業の後被けをしながら こんな会話をしたのが、つい此間のように思えます。